乳腺・内分泌外科
掲載No.0003
2018.3.26

乳癌治療について

科長 岩本 充彦(いわもと みつひこ)

乳癌の現状と治療方法

乳癌にはサブタイプといわれる様々なタイプが存在します。また乳癌は、しばしば「全身病」であると例えられます。そのため原則として手術だけで治療が完遂することは稀です。全身病であるが故に、根治に向け、病状やサブタイプに応じた全身治療、すなわち内分泌療法、化学療法、抗HER2薬を中心とした分子標的治療などを行う必要があります。当科では乳癌の診断から手術、さらに全身治療を一貫して担当しています。週4回の乳腺専門外来を中心に、ご紹介の患者さまはもとより、術後の患者さまの希望に迅速に対応し得るよう、乳腺専門医を含む専門のスタッフを配置し診療にあたっています。

年間の手術症例数は約270例、乳房再建症例は約50例です。

乳房温存療法と乳房再建術

乳癌手術ほど、ここ数十年間で術式が大きく変化した手術はないといわれています。以前は乳房に加えて大胸筋まで切除する術式が主流でありましたが、近年は大胸筋を温存し、さらに乳房温存療法が主流となりました。しかしながら、乳腺組織は決して再生することがないため、乳頭は温存されているものの整容性に優れていない症例が多いことも事実でありました。乳房温存療法において、整容性と根治性は対極にあるといえます。つまり整容性を重視して切除範囲を狭めれば、根治性が劣ることに繫がります。根治性を追求して広く切除すれば整容性が劣ることとなります。整容性と根治性の両立を目指すべく、昨今最も脚光を浴びているのが乳房再建術です。本院では、我々乳腺・内分泌外科と形成外科がコラボし、積極的に乳房再建に取り組んでいます。実は世界の名立たる乳癌治療における先進的な施設の多くでは、乳房温存率が減少しています。整容性に劣る乳房温存術を施行するよりは乳房全摘を行い、局所の根治を得たうえでレベルの高い乳房再建術を施行することが望ましいと考えられているからです。我々も世界のトップ施設への追従を目指し、積極的な乳房再建を展開中です。

乳房再建の術式

(図1・2)とシリコン等を用いたインプラント手術(図3)があります。また、乳癌手術と同時に行う一期的再建と、乳癌手術の後、一定の期間を空けて行う二期的再建術があります。本院では、あらゆる術式の施行が可能であり、病状や乳癌のサブタイプに応じ、また患者さまの希望も尊重し、最も望ましい術式の提示を実践しています。自家組織移植においては広背筋皮弁(図1)や、より難度が高いとされる遊離深下腹壁動脈穿通枝皮弁(図2)も施行可能です。
 乳癌と診断された、あるいは乳癌が疑われる、また乳癌術後で乳房再建をご希望の患者さまがおられましたら、是非私共にご相談ください。

診断

当院では乳がんの診断目的に以下の検査を実施しています。これらの診断能を駆使し、より正確な診断を目指しています。

<マンモグラフィー>

乳房を台の上に置き、圧迫して撮影するX線検査です。少し痛みを伴うことがありますが診断には不可欠な検査です。市民検診でも実施されています。

<超音波検査(エコー検査)>

体にゼリーを塗りプローブ(超音波検査用器具)をあてて撮影する検査です。痛み、侵襲のない検査です。

<CT,MRI>

当院では3D(立体構築)処理可能なCTやMRI検査を行い、乳がんの拡がり、肝、肺、リンパ節転移の有無などの検査を行っています。

<骨シンチグラフィー>

全身の骨を調べるX線検査です。骨への転移の有無を調べます。

<穿刺吸引細胞診>

腫瘍(しこり)を超音波検査で確認しながら注射針を用いて穿刺して細胞を採取し、病理検査を行い悪性か否かを調べる検査です。採血に用いるものと同様の注射針を使用します。

<針生検、画像ガイド下吸引術>

穿刺吸引細胞診では悪性の確定が得られなかった病変、あるいはどのサブタイプ(乳がんの生物学的特性)の乳がんであるかを調べる検査です。局所麻酔を行った上、針生検では長径2mm程の針を使用し細胞のみならず組織を採取します。さらに画像ガイド下吸引術では長径5mm程の針を使用し、より多くの組織を吸引採取します。これらの検査で組織を採取することによりエストロゲン、プロゲステロンレセプター(女性ホルモンの感受性)の有無、HER2(乳がんで過剰発現が認められることのある遺伝子タンパク)発現の有無、ki67(癌の増殖活性)なども調べることが可能であり、個々の病状、がんの特性に応じた治療にも繫がります。さらに当院ではステレオガイド下マンモトーム生検装置も完備していますので、より微小な石灰化病変などに対しても診断が可能です。

薬物療法

乳がん治療は手術のみならず追加の複合治療を要することが多いといえます。使用可能な薬物療法には抗癌剤、ホルモン剤、分子標的治療薬などがあります。乳がんには様々なサブタイプ(生物学的特性)があり、また病状、病期によっても治療法が大きく異なるため、それらを正確に診断しつつ的確な治療法を選択する必要があります。主な薬物療法に以下のものがあげられます。

<化学療法(抗がん剤)>

再発リスクが高い癌には化学療法を要します。具体的にはリンパ節転移を認める、腫瘍が大きい、癌の顔つきが悪い(異型度が高いもの)、血管、リンパ管侵襲がある、ホルモン感受性が低い、HER2過剰発現を認めるなどの項目があげられます。様々な抗がん剤が開発されていますが、再発リスクの高い症例にはアンスラサイクリンにタキサンを追加した療法が推奨されています。当院ではアンスラサイクリンとしてFEC(5FU+エピルビシン+サイクロフォスファミド)療法を、タキサンとしてドセタキセルをそれぞれ3週に1回、4回ずつの投与(計8回)を行っています。その他再発リスクに応じてドセタキセル+サイクロフォスファミド(TC療法)、経口(のみ薬)フッ化ピリミジンの投与なども施行しています。さらに再発症例に対しては、カペシタビン、TS-1、ゲムシタビン、ビノレルビン、エリブリン、アルブミン懸濁型パクリタキセルなどの単独または併用療法も行っています。科学的根拠に基づき、個々の状態に応じた最新かつ最善の化学療法を選択する様心掛けています。その際より安全な治療を行なうべく、専門医師、薬剤師の管理下、外来化学療法センターにおいて実施しています。また術前化学療法も積極的に導入し、根治性、乳房温存率の向上を図っています。

<内分泌(ホルモン)療法>

エストロゲンレセプター(女性ホルモンの感受性)を有する乳がんは内分泌療法の対象となります。そのような乳がんは女性ホルモンに依存して増殖するためです。閉経後乳がんにはアロマターゼ阻害剤(アナストロゾール、エクセメスタン、レトロゾール)の内服もしくは、フルベストラント(フェソロデックス)の筋肉注射をすることが、また閉経前乳がんにはタモキシフェンおよびLH-RH アゴニストの投与が推奨されています。再発の際にもホルモン療法には一定の効果が期待できるといえます。生命を脅かす病変がない限り患者様への負担が比較的軽い本治療の継続も行っています。

<分子標的治療>

HER2陽性の乳がんには抗HER2療法が推奨されています。トラスツズマブは術前および術後の補助療法としての適応があります。当院では術前および術後補助療法として使用しています。また転移、再発の際にも有効であり、化学療法、内分泌療法などとの併用もしくは単独での投与を行っています。トラスツズマブは3週に1回の点滴で投与し、やはり外来化学療法センターで実施しています。また経口抗HER2剤であるラパチニブは抗がん剤であるカペシタビンとの併用が義務付けられているため、適応の転移再発症例に使用しています。

また血管新生阻害薬として、VEGF(がんの血管形成や維持をサポートするもの)抗体であるベバシズマブは抗がん剤であるパクリタキセルとの併用が必要であるため、やはり適応の転移再発症例に投与を行っています。さらにmTOR阻害剤であるエベロリムス(アフィニトール)やCDK4/6阻害剤であるパルボシクリブ(イブランス)も導入し、適応の方に投与しています。

 

【自家組織移植】

(図1)
(図2)

【インプラント及び皮膚拡張器】

(図3)

〈受診について〉

かかりつけ医にご相談ください。かかりつけ医から本院医療連携室にご予約をお願いします。